2021年4月1日からオープンした「たまり場・いちげ」。ここは、ひたちなか子どもふれあい館(ひたちなか市市毛)の中にあり、毎日開かれている地域の人の居場所だ(日・祝休)。施設は誰でも自由に利用することができ、様々な教室や卓球、おしゃべりを楽しむ利用者たちの楽しそうな声が響いている。
今回はこの「たまり場・いちげ」の立ち上げのキーマンであり、運営に携わっている小舩さんにお話を伺った。
企業でバリバリ働いたのち、間もなく自治会長職への要請があり、4年間自治会長を務めた。自治会で様々な行事を実施してきたものの、改めて地域の高齢者や民生委員の経験者や、体操教室のリーダー、自治会や行政からも、常設の交流の場・居場所を期待する声の大きさを実感したという。
自治会長職を退いてからもその想いは強く、現在の自治会長にみんなを集めてもらい、「常設は自分たちで運営するしかない」ことを理解してもらった。少子化によって利用者が減少している「子どもふれあい館」を多世代交流の場とし、子どもたちとシェアしつつ交流する場所として【たまり場・いちげ】の開設に漕ぎつけた。
「暑い日に一人でクーラーをつけて家にいるよりも、みんなで集まって涼みながらおしゃべりしている方が、経済的にも心身の健康にも絶対に良い。」と小舩さんは語る。
「自然に集まって、自由に仲間を作って、新しいことを始めてほしい。」
地域の人の居場所を作ろうと考えたきっかけは、福祉に対する違和感だったという。
福祉というとどうしても「やってあげる」側と「やってもらう」側の構図が生まれてしまうことにモヤモヤを感じたそうだ。現役引退まで第一線でバリバリ働いていたというのに、引退した途端、急に社会のお荷物になって「助けてもらう」「やってもらう」側として扱われることに違和感を感じた。小舩さんは高齢者本人の気持ちに寄り添った生涯学習の場こそ必要だと考えている。「あくまでも自分のために、仲間から自分が今まで経験してないことを教えてもらったり、自分がやってきたことを活かして喜ばせたりしたい。」。そのような自分たちのための場を、小舩さんは仲間とともに作ろうとした。
小舩さんはあくまでも“常設”ということにこだわりをもっている。
「自然に集まって、自由に仲間を作って、新しいことを始めてほしい。そのためには月一回のイベントでは難しいからね。」
キーワードは「シェア」。場所だけではなく、食べ物も、知恵も、スキルもシェア。
「人間って色々な喜びがあるけれど、人から感謝される喜びは格別」と顔をほころばせる。
例えば、家で野菜がたくさん採れた人が野菜を持ってきたり、体操を教えられる人が体操を教えたり、漬物教室をしたり、料理を持ち寄ってみんなで食べたり…。それぞれが出来ることを活かして楽しめる場を作りたい。だからこそ人が集まることがスタートなんだと、小舩さんは語ってくださった。
現在、たまり場・いちげの利用者は、卓球、花札、水彩などそれぞれが場を使って自由に楽しんでいる。なかにはお弁当やアイスを持って食べに来る方もいるという。楽しいおしゃべりは貴重な情報交換でもある。
利用者は徐々に増えていて、今後維持していくために運営委員も増やしていきたいという。
一度はゴールだと思った自治会長。しかしそれはスタートだった。「まだまだ地域のために活動は終わらない。周りに人がいる限りは終わりがない。5年後、10年後にも新しいことを始めているかもしれないね。」と小舩さんはニコニコ話される。
インタビューの間中、生き生きとした楽しそうな笑い声が聞こえてきていて、いつでもだれでもふらりと立ち寄れる、そんなみんなの居場所には心地良い風が流れていると思った。
ききて:軍司真奈/写真:細川夏津稀