父娘二人三脚でつくるアイデアの詰まった作業台

加納 保さん(水戸市)

親子二人三脚でつくる

水戸市鯉淵町にある、特別養護老人ホームもみじ館。その一角に使われていない陶芸小屋がある。その改装を行う中で、テーブルや椅子、棚の作成を、加納さんが引き受けてくれた。加納さんのご親戚がもみじ館を利用していることから縁が繋がり改装を依頼したそうだ。

加納さんに引き受けてくれた理由を聞くと「頼まれたからだよ」と一言。多くは語らず黙々と作業台を作っていく。

脇にはサポートを務めている娘さんがいる。木材を押さえ、釘やドリルを準備する。息のあった動きに感心するが、時折親子らしいやり取りも見られる。

穴掘り三年、鋸五年、墨かけ八年、研ぎ一生

撮影をしていると娘さんから「鉋(かんな)を扱える人は少ないようですよ」と声をかけていただいた。

「穴掘り三年、鋸五年、墨かけ八年、研ぎ一生」という言葉があるらしい。

大工さんが技術を習得していく中で、道具を一人前に使いこなせるまでにどのくらいの時間がかかるかを表す言葉で、鉋の刃を研ぎ使いこなせるようになるのは一生かかるそうだ。

加納さんは16歳の時に大工に弟子入りをし、70年のキャリアがある。技術は師匠の背中を見て学んだ。

シュッ、シュッ、と鉋を軽快に動かす様に、高い技術力が伺える。

娘さんの職場に溢れる職人の仕事

娘さんはもみじ館からほど近い、鯉淵町の「Yuuju forest 優樹」というオープンガーデン(園芸店)を営んでいる。そこにはたくさんの緑とともに、加納さんの作品たちが並んでいた。

(木材で作られた鹿のオブジェ)

(時折ワークショップを行う建物)

(店舗内)

 

もともとは親戚の庭にある建物を現在の店舗へと改装したそうだが、それも加納さんと娘さんの二人で行ったという。

屋根の修繕、窓の設置、ビニールハウス、ワークショップスペースのテーブルやベンチ、店舗のカウンターなど様々なものをお二人で作業し作っている。

 

使う人のことを考えてつくる

作業台には細かなアイデアが施されていた。テーブルの四方を囲む淵を数ミリ上げることで物が倒れない仕組みになっていたり、テーブルの高さを車いすの人でも使いやすい高さに調整し、足がかけられるよう足場を備え付けたり、キャスターを付けてレイアウトも変えやすいよう工夫がされている。

細かい作業だが、設計図を見る様子もなく作業は進んでいく。「こんなものが欲しい」と言えば、要望にぴったりの家具が出来上がる。長年の経験で設計図が頭の中にあるようだ。

作業台が出来上がると、ゆっくりとベンチに腰をかけ作業台を確かめるように全体を見る。使う人のことを考えた細かな配慮と丁寧さが、職人仕事だなぁと感じた。

人が集う新しい居場所に

陶芸小屋は、とても明るく心地よい空間に生まれ変わった。

今後は地域の方、学生、ご利用者、職員などたくさんの人が集まり交流できる場所「もみじ会館」として利用されることとなる。

作業台を取り囲み、みんなが楽しそうにしている姿が眼に浮かぶ。ひっそりと空間に色を添えるこの家具を作った「しろうと先生」のことを、この場を利用するみんなに知ってもらいたいなと思った。

 

ききて/写真:細川夏津稀